「できるだけ塩分を控えて」では血圧は下がりません
こんにちは。あすと長町はんだクリニックです。
診察室で、こんなやりとりをしたことはありませんか。
「血圧、少し高めですね。塩分をできるだけ控えてください」
「はい、気をつけます」
とても自然な会話に見えます。けれど正直に申し上げると、この会話では、実は何ひとつ決まっていません。
今日は、私たち医療者の側の反省も込めて、「言葉の伝え方」の話をさせてください。減塩を例にしますが、これは血圧に限った話ではありません。
🤔 なぜ「できるだけ」では、行動が変わらないのか
「できるだけ」「なるべく」「気をつけて」。
やわらかくて、角が立たなくて、言いやすい言葉です。だからつい使ってしまいます。
でも、この手の言葉には共通の弱点があります。受け取った人が、自分の基準で解釈できてしまうのです。
ラーメンの汁を半分残した方も「できるだけ控えた」。漬物を一切れ減らした方も「できるだけ控えた」。今までとまったく同じ食生活の方でさえ、「自分なりにできるだけやっている」と言えてしまいます。
そして次の受診で、こうなります。
「どうでしたか」
「まあまあ、気をつけてはいるんですけどね」
「そうですか。じゃあ引き続き気をつけてください」
誰も嘘をついていないのに、何も進んでいない。これが「できるだけ」の正体です。
🔢 まず、数字にしてみる
では、数字にすればいいのでしょうか。
高血圧のある方の減塩目標は、1日6g未満とされています。ちなみに日本人の平均摂取量は、1日あたり10g前後。かなりの開きがあります。
数字が入ると、話は一歩前に進みます。「気をつける」ではなく「6gを目指す」という、共通のゴールができるからです。
ただ、正直に言えば、これでもまだ足りません。
なぜなら、塩分の「g」は目に見えないからです。食卓に並んだ料理を見て「これは何グラム」と分かる方は、ほとんどいらっしゃいません。数字は方向を示してくれますが、それだけでは今夜の食事は変わらないのです。
🍚 数字を、行動に翻訳する
ここからが本題です。大事なのは、数字を「今夜からできる動作」に置き換えること。
たとえば、こんなふうにです。
今夜からできる、5つの置き換え
- みそ汁を1日2杯から1杯に/みそ汁1杯におよそ1.5g前後。1杯減らすだけで目標との差がぐっと縮まります
- 麺類の汁を残す/ラーメンやそばの汁は1杯で5〜6gのことも。残すだけで2〜3g違います。麺そのものをやめる必要はありません
- しょうゆを「かける」から「つける」に/小皿に出してつけて食べる。それだけで使う量は目に見えて減ります
- 食卓の塩をテーブルから下げる/手を伸ばせば届くかどうかで使う回数は変わります。意志ではなく置き場所の問題です
- ハム・練り物・漬物を1日1品減らす/塩分は味の濃さより加工食品の量に比例します
いかがでしょうか。「1日6g未満を目指しましょう」より、「今日からみそ汁を1杯にしてみましょう」のほうが、はるかに実行できそうに思えませんか。
減塩をきちんと続けられた方では、血圧が数mmHg下がることが分かっています。数字としては地味に見えるかもしれません。それでも、脳卒中や心筋梗塞のリスクを考えれば、この数mmHgには十分な意味があります。
💬 これは、塩分だけの話ではありません
同じことが、診察室のあちこちで起きています。
「なるべく運動してください」
→ 週に何回、何分、何をすればいいのでしょうか。「1日15分、夕食後に歩く」まで決まって、はじめて実行できます。
「早めに受診してください」
→ 何がどうなったら「早め」なのでしょうか。「38度を超えたら」「3日たっても下がらなければ」まで決まっていないと、判断は患者さんに丸投げされたままです。
「お薬はきちんと飲んでくださいね」
→ 飲み忘れたときはどうするのか。飲みにくいと感じたら、どうすればいいのか。そこまで話しておかないと、黙って中断されてしまうことがあります。
いずれも、曖昧なまま帰していただいた私たちの側の課題だと思っています。
🩺 私たちが気をつけていること
だから当院では、診察の最後に「今日から何をするか」を、できるだけ具体的な形にしてお帰りいただくことを心がけています。
ひとつだけ、大事な補足があります。具体的にする、とは「たくさん指示する」ことではありません。
5つも6つも宿題を出されたら、人は動けなくなります。むしろ逆で、ひとつに絞る。その方の生活を伺ったうえで、いちばん実行できそうなものをひとつだけ選ぶ。それが続いたら、次の一手を考える。
遠回りに見えて、これがいちばん確実です。続かない完璧な指導より、続く小さな一歩のほうが、数字を動かします。
🙋 患者さんにも、ひとつお願いがあります
もし診察室で、私たちが曖昧なことを言っていたら。
「具体的には、何をどうすればいいですか?」
そう聞き返してください。遠慮はまったく要りません。
むしろ、そう聞いていただけると私たちも「ああ、伝わっていなかったな」と気づくことができます。これは、どちらか一方の努力では成り立たない作業です。
「先生は忙しそうだから」と飲み込んでしまう方が、本当に多くいらっしゃいます。けれど、分からないまま帰られるほうが、私たちにとっては何倍も困るのです。
✅ まとめ
- 1.「できるだけ」「なるべく」は、受け取る人が自由に解釈できてしまう言葉です。誰も嘘をついていないのに、何も進まなくなります。
- 2. 数字にすると一歩前に進みます。高血圧のある方の減塩目標は1日6g未満。日本人の平均は10g前後です。
- 3. でも数字だけでは足りません。「みそ汁を1杯に」「麺の汁を残す」のように、今夜からできる動作にまで翻訳します。
- 4. 宿題はひとつに絞ります。続かない完璧より、続く小さな一歩です。
- 5. 曖昧だと感じたら「具体的には?」と聞き返してください。それは私たちにとって、とてもありがたい質問です。
血圧やコレステロールの数値が気になっている方、健診で指摘を受けたけれど何から手をつけていいか分からない方。「何を、どれだけ、いつから」まで一緒に決めるところから始めましょう。
当院では生活習慣病の診療と各種健康診断を行っています。コレステロールについてはこちらの記事でも詳しくご説明していますので、あわせてご覧ください。